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盛岡地方裁判所 平成3年(行ウ)2号 判決 1991年10月28日

原告 丸屋地所株式会社

被告 盛岡市長

盛岡地区広域行政事務組合消防長

盛岡市

主文

一  原告の被告盛岡市長に対する不作為の違法確認の訴え及び処分取消しの訴えをいずれも却下する。

二  原告の被告盛岡地区広域行政事務組合消防長に対する不作為の違法確認の訴え及び処分取消しの訴えをいずれも却下する。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  (主位的請求)

1  原告と被告盛岡市長との間で、原告が被告盛岡市長に対して別紙同意及び協議申立目録一、三ないし六記載の書面をもってなした同意及び協議申立に対し、被告盛岡市長が何らの処分もしないことが違法であることを確認する。

2  原告と被告盛岡地区広域行政事務組合消防長との間で、原告が被告盛岡地区広域行政事務組合消防長に対して別紙同意及び協議申立目録二記載の書面をもってなした協議申立に対し、被告盛岡地区広域行政事務組合消防長が何らの処分もしないことが違法であることを確認する。

(予備的請求)

1  原告が、被告盛岡市長に対して別紙同意及び協議申立目録一、三ないし六記載の書面をもってなした同意及び協議申立に対し、被告盛岡市長がなした別紙不同意目録一、三ないし六記載の同意及び協議しない旨の処分を取り消す。

2  原告が、被告盛岡地区広域行政事務組合消防長に対して別紙同意及び協議申立目録二記載の書面をもってなした協議申立に対し、被告盛岡地区広域行政事務組合消防長がなした別紙不同意目録二記載の同意及び協議しない旨の処分を取り消す。

二  (一に対する予備的請求として)

1  被告盛岡市長は、原告に対し、原告が別紙同意及び協議申立目録一、三ないし六記載の書面をもってなした同意及び協議申立に対して同意及び協議せよ。

2  被告盛岡地区広域行政事務組合消防長は、原告に対し、原告が別紙同意及び協議申立目録二記載の書面をもってなした協議申立に対して同意及び協議せよ。

三  被告盛岡市は、原告に対し金七四五八万円及び内金六七八〇万円に対する平成三年三月三一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二原告の主張

一  不作為の違法確認及び処分取消し請求について

1  原告は、盛岡市上田字黒岩地区の山林一〇万八九三二・〇四平方メートルについて、都市計画法(以下「都計法」という。)二九条所定の開発許行為許可の申請の事前準備として、右開発行為に関係がある公共施設の管理者であり、かつ右開発行為又は開発行為に関する工事により設置される公共施設を管理することになる被告盛岡市長及び同盛岡地区広域行政事務組合消防長に対し、都計法三二条に基づき、別紙同意及び協議申立目録記載の各同意及び協議(以下「本件申立」という。)を求めた。

これに対し、被告盛岡市長及び同盛岡地区広域行政事務組合消防長は、別紙不同意目録記載のとおり、同意できないとの回答をしてきた。

2  右の同意及び協議は、これがなされれば、都計法所定の開発行為の許可申請が可能になるのに、これがなされなければ右申請が不可能になり(現に、原告は、平成二年九月四日岩手県知事に対して開発行為許可申請書を提出したが、平成三年一月二一日付けをもって、都計法三二条に規定する同意を得たことを証する書面及び協議の経過を示す書面の添付がないことを主な理由として不受理処分となっている。)、所有権の行使である開発行為が制限されることになるのである。従って、右の同意及び協議は、不作為の違法確認の訴えあるいは処分取消しの訴えの対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使」にあたる行為である。

3  しかしながら、被告盛岡市長及び同盛岡地区広域行政事務組合消防長が同意及び協議をしないという理由は、いずれも法的根拠がないものであり、同意及び協議をしないのは違法である。また、1記載の同意しないとの回答を本件申立に対する拒否処分と考えれば、これも拒否する法的根拠のない違法な処分である。

二  作為請求について

原告の本件申立の内容は、都計法三三条一項各号及びその他関係法令に適合するものであって、都計法三二条よりすれば、被告盛岡市長及び同盛岡地区広域行政事務組合消防長は、これに同意しかつ協議すべき義務があり、仮に、これら同意等が私人としての行為と同じ性格であるとするならば、原告は、民法四一四条二項ただし書により、同意及び協議をすることを求めるものである。

三  損害賠償請求について

盛岡市長その他被告盛岡市の担当職員により、法的根拠なく同意及び協議をしないという違法な取扱がなされた結果、原告は、開発行為許可申請に関する書類として五〇〇〇万円、交通費として六〇〇万円及び宿泊費として一八〇万円の支出を余儀なくされており、また精神的苦痛を被っているところ、その慰謝料としては一〇〇〇万円が相当である。そして、原告は、本件について訴訟委任した弁護士との間で、認容された金額の一割を報酬とすることを合意している。

よって、被告盛岡市は、原告に対し、国賠法一条一項に基づき、損害賠償として七四五八万円及び内六七八〇万円に対する右不法行為のなされた後の日である平成三年三月三一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第三当裁判所の判断

一  不作為の違法確認及び処分取消し請求について

1  処分取消しの訴え及び不作為の違法確認の訴えの対象となる処分とは、公権力の主体としての行政庁が、その優越的な地位に基づく公権力の行使として行う行為であって、直接国民の権利義務に影響を及ぼすような性質のものを言う。

2  そこで、本件で問題となっている同意及び協議が右にいう処分にあたるかを検討する。

(一) 都計法三二条は、「開発許可を申請しようとする者は、あらかじめ、開発行為に関係がある公共施設の管理者の同意を得、かつ、当該開発行為又は当該開発行為に関する工事により設置される公共施設を管理することとなる者その他政令で定める者と協議しなければならない。」と定め、また、同法三〇条二項は、開発行為の許可(以下「開発許可」という。)の申請書に同法三二条に規定する「同意を得たことを証する書面」及び同条に規定する「協議の経過に関する書面」を添付することを要するとし、同法三三条一項は、開発許可の申請手続がこの法律等の規定に違反していないと認めるときは、都道府県知事は開発許可をしなければならないとしている。したがって、少なくとも都計法三二条所定の「同意」が得られなければ、適法な開発許可の申請ができないことになる。

(二) しかしながら、まず、都計法三二条の同意の対象となる公共施設について考えると、同法四条一四項及び同法施行令一条の二には同法における公共施設の定義規定がおかれ、それによれば、公共施設とは、道路、公園、下水道、緑地、広場、河川、運河、水路及び消防の用に供する貯水施設をいうとされ、同法三二条はこれをそのまま受けているから、同条の対象となる公共施設は、右規定に掲げられたものがこれにあたることになる。そして、都計法は、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り」(一条)という観点から法的規制を行う法律であるところ、右各公共施設についても、例えば道路については単に「道路」として、道路法上の道路とはしていないなど、特別な定義規定を置いていないことからして、同法三二条の同意の対象となる公共施設については、私人が管理する場合も含めていると解される(因みに、同法三九条は、開発行為又は開発行為に関する工事により設置される公共施設について、私人が管理することを予定している。)。

そして、右のとおり私人が管理する公共施設についての管理者の同法三二条の同意に関して、右私人を公権力の主体である行政庁とするとの規定は、明文のものはもちろんその趣旨を窺わせるものもない。一方国若しくは地方公共団体又はその機関が公共施設の管理者である場合について、私人が管理者である場合と区別して同意を扱っていると解されるような規定はおいていない。むしろ同法三二条は、「同意」という行政法規の一般用語例からして公権力の行使という性格を有しているとは言い難い用語を用いているとともに、開発許可に関しては、同法三〇条において申請手続を、同法三三条において開発許可の基準及び開発許可の申請が右基準に適合する等適法な場合における許可権者である都道府県知事の許可の義務を、同法三五条において不許可処分の場合の通知等の手続を、同法五〇条、五二条において開発許可に関する開発審査会への審査請求とこれを処分取消しの訴えの前置とすること等、それをするについての要件や、それをなさなかった場合の事後手続等に関する規定をおいているのに対し、同法三二条の同意については、右のような規定を欠いているのであって、都計法は、三二条の同意が処分であることを窺わせるようには規定していないのである。

(三) 以上によれば、都計法においては、同法三二条の同意について、国若しくは地方公共団体又はその機関が公共施設の管理者である場合を、私人が管理者である場合と特に区別するような位置づけをしておらず、公権力の行使である処分としての性格を付与していないというほかない。

また、同法三二条の協議については、同条及び同法施行令二三条によれば、その相手方に当然私人が含まれ、また、都計法の規定の仕方については(二)で述べたことがそのまま当てはまるほか、(一)で述べたとおり、開発行為の許可申請書には、「協議の経過を示す書面」の添付は要求されているが、協議が整うことまでは開発許可の要件とはされておらず、右書面には、誠意をもって協議を申し入れたが、公共施設の管理予定者が合理的な理由もなくこれに応じなかったような場合は、そのことを記載しておけば法の要求するところは満たされると考えられるから、誠意をもって協議の申し入れをしている限り、開発許可の申請をすることはでき、公共施設の管理予定者が協議に応じないこと自体は開発許可の申請をするにつき何らの影響を与えるものでもないから、都計法においては、同法三二条の協議についても公権力の行使である処分としての性格は付与されていないということになる。

3  したがって、都計法三二条の同意及び協議は、不作為の違法確認の訴え及び処分取消しの訴えの対象となる処分に該当しないから、原告のこの点に関する訴えは不適法なものであり、却下を免れない。

二  作為請求について

原告は、原告の本件申立の内容は、都計法三三条一項各号及びその他関係法令に適合するものであって、都計法三二条よりすれば、被告盛岡市長及び同盛岡地区広域行政事務組合消防長は、これに同意しかつ協議すべき義務がある旨主張する。しかしながら、原告の主張するところの都計法三三条一項各号及びその他関係法令は、いずれも開発行為の許可に関する基準であって、これらが同意ないしは協議をすべき義務の根拠となるような規定の仕方はしておらず、都計法その他関係法令において、都計法三二条の同意及び協議それ自体の義務の発生及びその要件を定めていると解しうるものを見出すことはできない。

従って、原告の本訴請求のうち、同意及び協議を求める部分については、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

三  損害賠償請求について

原告の損害賠償請求は、施設管理者としてなすべき同意及び協議が違法になされなかったことを前提としていると解されるところ、同意及び協議をすべき法的義務があるとは言えないことは前述のとおりであり、それをなさないことが違法であるとは言えないから、原告のこの点に関する請求も、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

(裁判官 高橋一之 井上薫 阿部浩巳)

別紙

同意及び協議申立目録

一、平成二年二月一六日付け、被告盛岡市長に対する下水道(汚水)に関する協議同意書(同日付け盛岡市建設課第四―七号)

二、同日付け被告盛岡地区広域行政事務組合消防長名久井務に対する消防水利に関する協議申出(同日付け盛岡消防署第四三七一号)

三、同日付け被告盛岡市長に対する水路に関する協議同意書(同日付け盛岡市都市河川課第一―二〇号)

四、同日付け被告盛岡市長に対する公園に関する協議・同意書(同日付け盛岡市都市計画部公園緑地課第二―五号)

五、同日付け被告盛岡市長に対する道路に関する協議書(同日付け盛岡市建設部道路管理課第一七―一二号)

六、平成二年三月七日付け被告盛岡市長に対する水道施設建設等申請書(平成二年三月二九日付け元盛都第一四九号)

別紙

不同意目録

一、被告盛岡市長が原告に対して平成二年三月二六日付け元盛建第四―七号を以てなした同意できないとの処分。

二、被告盛岡地区広域行政事務組合消防長名久井務が原告に対して同月二八日付け盛広盛消収第四三七一号を以てなした同意できないとの処分。

三、被告盛岡市長が原告に対して同月二九日付け元盛河第一―二〇号を以てなした同意できないとの処分。

四、被告盛岡市長が原告に対して同月二八日付け元盛緑第二―五号を以てなした同意できないとの処分。

五、被告盛岡市長が原告に対して同月二九日付け元盛道管第一七―一二号を以てなした同意できないとの処分。

六、被告盛岡市長が原告に対して同日付け元盛都第一四九号を以てなした同意できないとの処分。

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